GIGAスクール構想の推進により、全国の小中学校で1人1台タブレット端末の整備が進み、子どもたちの学習環境は大きく変化しています。タブレット学習は、従来の紙媒体による学習と比べて、学習の個別最適化や学習意欲の向上など、多くのメリットをもたらします。
しかし、その一方で、インターネットへの接続に伴うセキュリティリスクや、情報モラルに関する問題など、新たな課題も浮上しています。
今回は、タブレット学習におけるセキュリティリスクと対策について、教育関係者や保護者に向けて詳しく解説していきます。
GIGAスクール構想で拡大するタブレット学習:その現状と課題
1人1台端末時代到来!GIGAスクール構想とは?
GIGAスクール構想とは、文部科学省が推進する、全国の小中学生に1人1台のコンピュータ端末と高速ネットワークを整備することで、 「個別最適化された学び」 と 「創造性を育む学び」 の実現を目指す教育改革です。
2020年度から本格的にスタートし、多くの学校でタブレット端末が導入されています。
タブレット学習のメリット:学習の個別最適化、学習意欲の向上
タブレット学習は、従来の学習方法と比べて、以下のようなメリットがあります。
- 学習の個別最適化: 生徒一人ひとりの理解度や学習進度に合わせた学習が可能になる
- 学習意欲の向上: 動画やゲームなどを取り入れた、子どもにとって分かりやすく、楽しい学習が可能になる
- 情報活用能力の育成: インターネットを活用した情報収集や、プレゼンテーション資料の作成など、デジタル社会で必須となるスキルを身につけることができる
- 教員の業務効率化: 採点作業の自動化や、学習進捗の可視化などにより、教員の負担を軽減できる
タブレット学習のリスク:セキュリティ面の脆弱性、情報モラルの問題
一方で、タブレット学習には、以下のようなリスクも存在します。
- セキュリティ面の脆弱性: インターネットへの接続に伴い、ウイルス感染や不正アクセス、情報漏洩などのリスクが高まります。
- 情報モラルの問題: インターネット上の有害情報へのアクセスや、SNSでのトラブル、ネットいじめなどの問題が起こる可能性があります。
- 健康面への影響: 長時間のタブレット使用による、視力低下や睡眠障害、運動不足などが懸念されます。
これらのリスクを最小限に抑え、子どもたちが安全にタブレット学習に取り組めるよう、適切な対策を講じる必要があります。
タブレット学習で起こりうるセキュリティリスク
タブレット学習によって、子どもたちは、これまで以上にインターネットに触れる機会が増加します。
そのため、 インターネット上にはびこる様々な危険 から、子どもたちを守るための対策が必須です。
ここでは、タブレット学習において特に注意すべきセキュリティリスクを5つご紹介します。
1. 有害サイトへのアクセス
インターネット上には、 子どもたちにとって有害な情報 を含むWebサイトが数多く存在します。
- 暴力的な表現や性的な表現を含むサイト
- 違法な薬物の販売や、犯罪を助長するようなサイト
- 自殺や自傷行為を誘発するようなサイト
このようなサイトに子どもがアクセスしてしまうと、 精神的なショックを受けたり、間違った価値観を植え付けられたりする 恐れがあります。
また、 フィッシング詐欺 のサイトにアクセスしてしまうと、 個人情報が盗まれ、悪用される 危険性もあります。
2. ウイルス感染
ウイルスに感染すると、
- タブレット端末に保存されている学習データが破壊される
- 端末が正常に動作しなくなる
- 個人情報が外部に漏洩する
などの被害が発生する可能性があります。
ウイルス感染の原因としては、
- 不審なWebサイトへのアクセス
- 信頼できない送信元からのメールに添付されたファイルを開封
- ウイルス感染しているUSBメモリなどの外部記憶装置の使用
などが挙げられます。
3. 不正アクセス
第三者によって、タブレット端末に不正にアクセスされ、 個人情報が盗み見られたり、改ざんされたりする リスクがあります。
不正アクセスは、
- パスワードが盗み見られる
- セキュリティの脆弱性をつかれる
ことによって発生します。
4. 紛失・盗難
タブレット端末を 紛失したり、盗難されたり した場合、端末内に保存されている個人情報が悪用される危険性があります。
特に、 学校にタブレット端末を持ち運ぶ 場合は、紛失や盗難のリスクが高まるため、注意が必要です。
5. 不適切な情報発信
子どもがSNSなどで、 個人情報やプライベートな写真などを安易に発信 してしまうと、 トラブルに巻き込まれたり、プライバシーの侵害 につながる可能性があります。
安全・安心なタブレット学習のために:具体的なセキュリティ対策
タブレット学習に伴うセキュリティリスクを軽減し、安全な学習環境を構築するために、具体的な対策を5つの観点から解説します。
1. フィルタリング
有害サイトへのアクセスを遮断 するために、フィルタリングは必須です。
フィルタリングには、
- Webサイトの閲覧制限
- 特定のアプリの利用制限
- インターネット利用時間の制限
などの機能があります。
最近では、AIなどを活用し、従来のキーワードマッチング方式よりも高い精度で、有害サイトをブロックできるフィルタリングサービスも登場しています。
また、時間帯によって利用できる機能を制限する機能もあり、例えば、夜間はゲームアプリの利用を制限するといった設定も可能です。
2. セキュリティソフト導入
ウイルス感染や不正アクセスを防ぐ ためには、セキュリティソフトの導入も有効です。
セキュリティソフトには、
- ウイルス対策ソフト
- ファイアウォール
- 不正侵入検知システム
など、様々な種類があります。
【おすすめセキュリティソフト3選】
- ウイルスバスター クラウド (トレンドマイクロ) : 高いウイルス検出率と軽快な動作が特徴
- ノートン360 (ノートンライフロック) : 多層的な保護機能と充実したサポートが魅力
- マカフィー リブセーフ (マカフィー) : 複数のデバイスをまとめて保護できる
(※ 上記は一例です。製品の機能や料金は、提供元によって異なるため、最新の情報を確認するようにしてください。)
3. パスワード管理の徹底
パスワードは、 第三者による不正アクセスを防ぐための最初の砦 となります。
子どもたちには、
- 推測されにくい、複雑なパスワードを設定すること
- 定期的にパスワードを変更すること
- 複数のサービスで同じパスワードを使い回さないこと
の重要性を、しっかりと教えましょう。
4. 端末の管理体制の構築
学校でタブレット端末を一括管理するために、 MDM (モバイルデバイス管理) の導入が進んでいます。
MDMを導入することで、
- 端末の利用状況の監視
- アプリのインストール制限
- 紛失・盗難時のリモートロックやデータ消去
などが可能となり、セキュリティレベルを大幅に向上させることができます。
【MDMサービス導入事例】
- CLOMO MDM (株式会社シー・エル・オー) : 導入実績多数!教育機関向け機能が充実
- Microsoft Intune (マイクロソフト) : Windows端末との親和性が高い
- Jamf School (Jamf) : Apple製品に特化したMDM
(※ 上記は一例です。製品の機能や料金は、提供元によって異なるため、最新の情報を確認するようにしてください。)
5. 情報モラル教育の実施
セキュリティ対策ソフトなどの技術的な対策に加えて、 子どもたち自身が、インターネットを安全に利用するための知識・モラルを身につける ことが重要です。
情報モラル教育では、
- インターネットの仕組み
- インターネット利用におけるルールやマナー
- 個人情報の重要性
- 著作権や肖像権
などについて、子どもたちの発達段階に合わせて、分かりやすく教えることが大切です。
GIGAスクール構想における端末管理:BYOD/BYAD とは?
GIGAスクール構想では、自治体や学校によって、端末の調達方法や管理の主体が異なります。
BYOD (Bring Your Own Device) や BYAD (Bring Your Assigned Device) といった言葉とともに、その違いと、それぞれのセキュリティ対策について解説します。
BYOD とは?: メリット・デメリット、セキュリティ上の注意点
BYOD とは、 生徒が私物のスマートフォンやタブレット端末を学校に持ち込み、学習に利用すること です。
【メリット】
- 端末の整備費用を抑えられる
- 生徒が使い慣れた端末を使える
【デメリット】
- 端末の紛失・盗難時の責任問題
- 端末の性能差による学習格差
- セキュリティ対策の徹底が難しい
【セキュリティ上の注意点】
- 学校のネットワークに接続する際のセキュリティ対策
- 利用アプリの制限
- 個人情報の取り扱い
BYAD とは?: メリット・デメリット、セキュリティ上の注意点
BYAD とは、 学校が用意したタブレット端末を、生徒に貸与して、学習に利用すること です。
【メリット】
- セキュリティ対策を統一しやすい
- 端末の性能差による学習格差をなくせる
- 紛失・盗難時の対応を一本化できる
【デメリット】
- 端末の整備費用がかかる
- 端末の持ち運びが負担になる場合がある
【セキュリティ上の注意点】
- 端末の貸与・返却時の管理体制の構築
- 紛失・盗難時の対応策
- 家庭での利用ルールの設定
BYOD/BYAD におけるセキュリティ対策:端末管理、アプリ管理、情報モラル教育
BYOD/BYAD に関わらず、タブレット学習におけるセキュリティ対策として重要なのは、
- 端末管理: 紛失・盗難対策、利用状況の把握
- アプリ管理: 有害アプリのインストール防止、必要なアプリの配布
- 情報モラル教育: インターネットの安全な使い方、個人情報の保護
の3点です。
保護者ができること:家庭でのセキュリティ対策
学校でのセキュリティ対策に加えて、 家庭でのセキュリティ対策も重要 になります。
家庭でのルール作り:利用時間、利用場所、利用アプリの制限
タブレット端末の利用時間、利用場所、利用アプリなどを 家庭でルール化 し、子どもと守るようにしましょう。
- 利用時間: ダラダラと長時間利用しないように、時間を決めておくことが重要です。
- 利用場所: リビングなど、 家族の目が届く場所 で利用するようにしましょう。
- 利用アプリ: ゲームやSNSなど、 利用して良いアプリ、いけないアプリ を決めておきましょう。
親子での対話:インターネットのリスク、情報モラルについて話し合う
インターネットのリスクや情報モラルについて、 日頃から親子で話し合う 機会を持ちましょう。
- インターネットで起きた事件やニュース
- SNSでのトラブル
などを題材にするのも良いでしょう。
フィルタリング設定の見直し
家庭のインターネット環境でも、 フィルタリング機能 を活用しましょう。
フィルタリングサービスを提供しているプロバイダもあれば、無料のフィルタリングソフトも公開されています。
子どもの年齢や利用状況に応じて、 適切なフィルタリングレベルを設定 することが大切です。
セキュリティソフトの導入
家庭のコンピュータと同様に、タブレット端末にも セキュリティソフトを導入 することをおすすめします。
ウイルス感染や不正アクセス から端末を守り、より安全にインターネットを利用することができます。
まとめ: セキュリティ対策を万全に!子どもたちの未来を守るために
GIGAスクール構想によって、子どもたちの学習環境は大きく進化しています。
タブレット端末は、子どもたちの可能性を広げるための 強力なツール となりえますが、その一方で、 インターネットの危険 にもさらされることになります。
子どもたちが安全にタブレット端末を活用し、その可能性を最大限に活かせるように、 学校と家庭が連携して、セキュリティ対策に取り組んでいくこと が重要です。